初恋の女性が離婚した日、夫は一晩中煙草を吸っていた。「彼女は子どもを抱えて一人で大変なんだ」と言う夫を、私は自ら荷造りして彼女の家の下まで送り届け、帰ってすぐ彼のスリッパを捨て、三年で一番よく眠った

月夜のしおり

月夜のしおり

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初恋の女・白石美緒が離婚して、子どもを連れて戻ってきた夜。

夫・高瀬真司は、一晩中ベランダで煙草を吸っていた。

「美緒は、女ひとりで子どもを抱えている。簡単じゃないんだ」

その言葉を聞いた瞬間、私はもう怒らなかった。

泣きもしなかった。

ただ、静かに言った。

「だったら、そばにいてあげたら」

翌朝。

私は夫の白シャツ、下着、髭剃り、パジャマ、胃薬、頭痛薬まで丁寧にスーツケースへ詰めた。

そして自分で車を運転し、彼を美緒のマンションの下まで送り届けた。

三階のカーテンの向こうで、美緒が子どもを抱いて見ていた。

夫は振り返った。

その一瞬で、私の中に残っていた最後の糸が切れた。

「行って」

私はそう言って、彼を置いて帰った。

家に戻って最初にしたことは、玄関に残っていた彼のスリッパを捨てること。

次に、彼の胃に合わせて作っていた薄味の料理を全部捨てること。

そして、三年間ずっと我慢していた麻辣ザリガニと辛口チキンを注文することだった。

赤い油にまみれた一口を噛んだ瞬間、私は思い出した。

私は本当は、こういう味が好きだった。

そこから夫の夢は、少しずつ現実に変わっていった。

子どもの夜泣き。

足りないタオル。

見つからない冷却シート。

塩もない台所。

泣いてばかりの美緒。

夫は何度も私に電話してきた。

「どこに入れた?」

「少しだけ家に入れてくれ」

「本当に限界なんだ」

でも私は、もう玄関を開けなかった。

彼が欲しかったのは初恋ではなく、初恋という美しい物語だった。

けれど物語には、家賃がかかる。

水道光熱費がかかる。

子どもは夜に泣く。

台所には塩がない。

そして彼はようやく気づく。

自分が「疲れない女」と呼んでいた妻が、どれほど自分を支えていたのかを。

やがて美緒の嘘も崩れた。

彼女は家に反対されて引き裂かれた悲劇の女ではなかった。

自分で別の人生を選び、戻ってきた時だけ、昔の恋を避難場所にしようとした女だった。

でも、真実を知っても遅い。

私はもう、誰かの夢の番人ではない。

離婚し、家を作り替え、辛いものを食べ、走り、眠り、自分の味を取り戻した。

そして水谷遼と出会った。

彼は私を急かさなかった。

私の我慢を当たり前にしなかった。

私が一人でいたい日は、扉の外で待ってくれた。

これは、ただの初恋ざまぁではありません。

夫の心に住み続けた白月光を、自分の手で本人へ返した妻が、古いスリッパを捨て、自分の眠りと味と人生を取り戻す物語です。

最後まで見てください。

本当の逆転は、夫を後悔させることではなく――

もう誰かの夢を守らず、自分の朝を作り直すことだった。

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